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もう私は言葉を意味のために使ってはいけないのではないかと、恐怖に近い感覚が肺の中を泳ぎはじめている。恐ろしいことだ、すかすかになって、それだけが許されて、だってもう言葉を頑張って引っ張ってくるためのものなど何もないことがわかってしまって、言葉を侮辱するような汚いものだけが体の内側には残っていて、それも枯れていくし、もう私は言葉を意味のために使ってはいけないのではないかと、急に思って恐ろしくなる。そうなったら、もう本当にどこにもいけないし、でもそれはもともとであるし、脱却できなかったのであるし、もう遅いと思うのをやめようって思ったのは誰だっけ?目の前が真っ青になる 焦りだけがやたらと心臓を打って夜は眠れない、逃げるように散歩に行けば帰るための足が動かなくなる。不思議と本が読めるくらいに思考が冴えているのが救いだと思う。文字さえ追えない、音楽さえ息が苦しいようなときだってあったのだから

歩く時、たとえば、ある一点をじっと見て、視点を動かさないように歩こうとすると、それが私には不可能であることがわかる。両方の脚の長さの差異、股関節の不適切な挙動、左右にぐらぐら揺れる重心。まともに歩くということが難しいことに、どうして────首のとれた雪だるまが、全身を土にして、立っていた、削れていく体、消えていくためだけの体、なんだってそうだろうが────内臓が鳴ります

妹の成人式だった。雨の予報が数日前に出ていたから、降らなくてよかったと思った 私は妹の晴れ着姿をじつは一度も見ていない 前撮りの日は夜まで起き上がれないほどの憂鬱に体を覆われていたし、今日もタイミングが合わなかった 母親からの電話が切れて、どんな気持ちになればいいのか分からなかった 妹は真っ当に充実させて生きていくことができるだろうし、そうできればいいねと思う そういう話は一度もしたことがないし、多分一生しないと思う