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顔も声も知らないだれかがたしかに光を受け取って宝物にしている音楽だ、ということが無性に響いてきたりもする。ゆっくりと寝返りを打てばワイヤレスイヤホンの、ただしく動作していることを示す点滅がカメラのフラッシュのようだった。

イヤホンで音楽を聴いているとき、ゆっくりと呼吸をすれば音とわたしの関係が逆転したような感覚になる、頭蓋の重さはわたしの一部でしかないのだということがわかると、無性にあっけないような、虚しいような気分になる。

人の目がなければわたしは早くに目を覚ますことができるらしい。(それもそのはずで、一人で暮らしていたころは用があるなら5時にだって6時にだって平気な顔で起きることができた、憂鬱に体を沈められるのはまた別の問題だったから)

できることなら、夜は遅くに寝て、朝は早くに起きて、それから昼間にゆっくりと寝たい。できることなら。できることなら、がぽこぽこと無数に増殖して、薄暗い秋の気流の中をゆったりと消えていく。

わたしにとって、深夜は寂しい時間ではない。人の連なりのなかであることについては、昼間のほうが、取り残されているような気がして寂しくはないけれど怖いと思う。

肌が荒れてきたのをたしかめるためにいつもするよりも丁寧に鏡を覗くと、額に知らない横皺になろうとしている影を見つけて、そういえば、もう老いていくしかないことなどを思ったりもする、これからの余生にあまり希望はない。今の所それになんらの感慨もなく、もしかしたらその曖昧さにすがっているだけなのかもしれないけれど、ただそれだけのことで、勝手に見下さないでほしいなとは思う。