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例えば前夜、ある雨の夜に乗ったバスのことを思い出していたら、急に体が戻ってきたような気持ちになれたこと。

ごごごごごう、ごごごごごう、ごごごごごう、

がら空きというほどではなく、確かに通常時に比べたら空いているのだけれど、左右合わせて1列にひとりは座っている感じ、といえば伝わるだろうか。こう書いてしまうと少なく見える。気がする。難しい。空が濁っているのは窓のせいだろうか。ざらついたアナウンス、定型文、政府からのお願いですの後に続いたじさつの音にびっくりするもののさらに続いたうきんになるほどと思うみたいなそんなこと前に誰かが言っていた気がする。

そういえばパソコン 多分保ったね よかったね

畑地の中にぽっこりと墓地が現れたりして、私はその人たちの生活感覚をきっと想像することができない。

体を置いてきたんだなあとぼんやり思った。できることなら、黒ずんで腐っていく体をみんなそのまま置いていきたかった。

光りと影が綺麗に出る街なんだなと思った。久しぶりにたくさんしょうもない写真を撮った。去年初詣に行けなかった、以前の住居から最寄りの神社まで歩いて行った。真っ青な影。何もかもが透き通って折り重なっている。白い砂利を踏んで踏んで、長い距離を歩くことを忘れた足にはずっとずっと続いているようにも思える道を進んでいく。

そのまま川沿いを歩いて下った。大きい鳥がいて、大きい木が落ちていて、水面は傾く陽の光をきらきらと散らしている。飛び石を渡る人たちがその逆光の中に消えていったこと、こんなに綺麗なことがあって良いのかと思ってしまったこと。

 

もう少し歩いて、少し前になんとなく知った古本屋を目指して歩いた。初めはなかなか見つからなくて、私はいつもこうなのでもう諦めてしまおうかと思った矢先になんとなくそれらしい人が出てきた建物を見ればそこだったので無事に入ることができた。その人はそこの店員だった。茶色い室内は古い紙の甘い匂いがした。ついぞ卒論期間中に参照するのを諦めた本が普通に置いてあって笑ってしまう。いくつか書名を控えたので春までに読もうと思う。

 

それからまたふらふらと歩いて歩いて、駅まで向かって、人の少ないチケット売り場で帰りの券を買って見えた電車にぼんやりと乗り込む。

なんでもう帰っているんだろうなと思った。例えば適当に寝床を取って(先日ツイッターで話題になっていたようなカプセルもあったな)、一泊くらいすればよかったな、と思った。何に怯えているんだろう。どうしたらよかったんだろう。風景が煙のような夜に覆われていくのを車窓から見ていた。幅の広い川のつるりとした表面に、星のように街灯が反射している。

 

終点に近づいて、向こうの線路を行く電車が、窓硝子の都合なのか青白く光っていて幽霊列車みたいに見えた 到着した車両が頼りなく揺れるのが船みたいに見えたから、これも遠くから見たら幽霊船みたいに見えて、そこに乗っているわたしは幽霊になるんじゃないかとか、そんなことばかり考えていた。