0827-9

振り返れば道々はまだ白く光っていた、夏の残照、雲の陰影 電車に乗る、距離もわからないどこかへ行く。算数をする、人と話す。「ただそれだけの簡単なこと」、それに気づくことも簡単かといえばそうではないから、なかったから、仕方なかった色々なことを振り返るべきか今。

帰りの電車が少し高いところを通過するとき、傷ひとつない天蓋が見えて目を見張る。自然ならこんなにつるりとしていないでほしかったと思う、明るいのに文字通り底のない深い深い青色をしていた、だから夕方の空が好きだった。電車を降りれば狭い道の両脇に詰まった建築に阻まれて空が見えない、初めてここの空が狭いと思った。踏み慣れた大きな交差点のことを思い出す。明け方も朝も昼も夕暮れも夜中も知っていた気になれたことなど。青の一歩手前が金色に光っていることが不思議だった。考えるのを止めれば遠足前夜めいた気持ちがきらきら揺れている。

小麦を一度に食べ過ぎると顔がむくんで舌が回りづらくなる、頭が重たくなって眠りの甘さに引きずり込まれるようになる、わかっていてタマゴサンドを作って食べた。遣る瀬無い気持ちになったとき、コンビニまで走って1斤100円の食パンを買い、耳だけを食べ尽くして気絶するようなことをしていた時期がある。

ある事柄を知ったとき、以前よりもそういったことに対して怒りも嫉妬も軽蔑もわかないで、気持ちが穏やかに凪いでいるのを発見して、嬉しくなった。たくさん笑おうと思ったきっかけは赤の他人だったことなども、思い出しの中にある。

空の青に沈んだ蝉の震えは泡みたいだ、夏の想像にソーダが現れることを思った、砂みたいに崩れていく体を見送っている、ただそれだけの8月が過ぎ去っていく