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当面のすることが見えてから、切羽詰まり方の質が変わったというか、それなりに気分は楽になった。紫色を瞼に乗せても大丈夫かもしれないと思ってから、数多ある劣等感の些細ないくつかが少しだけ浮かばれたような気分になった。

天気は雨でも降りそうな曇りかと思えば晴れ、そう言えば振込に行かなければいけないことを思い出し、外に出る、子どもが遊んでいる。

そういえば、廊下には知らない匂いがしていた。家族の誰かが珍しく香料を使ったのだろうと思った。それ以来、日付が変わるまで、日付が変わっても私の部屋には知らない匂いがしたままでいた。お風呂から上がる、なんとなくで顔に塗ってみたワセリンのてかりがなかなか落ち着かないで、だから誰とも顔を合わせないようにしていた。

実はインターネットの上では家族の話はあまりしないようにしている。たまにうっかりしてしまうけれどそういうことにしていて、理由は単純に、私ではない他人の情報になってしまうからで、だからなるべくその日の行動とか、発言とか、所属とか趣味とかそういったものには言及しないようにしている。たまに破ってしまうけれど。

チケットを買った、配信の3回目。閲覧者数は先週の二倍ほどの大きさになっている。だからなのか、音声が途切れ途切れになる。映像が止まる。3回ほどリロードして、それから諦めた。まだ全容を見ていない誰かになるべく完全な形で見てもらいたいと思ったからだった。この上演が私は好きだった。ゆっくりと流れ去っていく言葉が心地良いのは、それらの並びが私にとって甘言だからかもしれない。声や話し方のことを考える。