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こちらに帰ってきたときよりも、家にはいられるようになったし、普通に話せるようにもなってきた。けれどもやはりなにごとにも後ろめたさはつきまとうし、外に出ようとすれば何かと詮索とも認識されていないのであろう詮索が入ることの息苦しさからは逃れられない。

ぼかし、やや不思議な経緯で知り合った人に会いに行った。曇り空、大気は少し暗い白、行きの電車、真ん中に近づけば近づくほどすべては目まぐるしく、揺られて息をしているもののすべてが細胞に近づいていくような気がした。この満員電車に何かひとつでも大事なものが乗せられている確率について考える。腕を曲げる重機のほうが正しく生き物であるように見えた。

しばらく話して別れて帰った。食用の亀。誰かが死ぬことの重さが自分にわかるのか。この先の長さ。何もない島、船に乗る犬の話など。窓の外は少しずつ青くなっていく。帰りの電車、流れていく視界の中で濡れたアスファルトに猥雑な光が溶けているのを眺めながら、もう京都と同じ軽さで人に会うことはできないのだなとわかった。ひとつの駅で乗客が流れ出て、扉と扉の間に空白ができる、そこに寝転んでみたいと思った、到達しない7秒先にそこに寝転んで呻いている私を見た。停車ごとに運試しをしている気分になる、あたりとはずれが引っくり返るとき私の体も外に流れていく。質量の集まった駅構内をくぐり抜ける、また違う箱に収まって流れていく。無数のビルをつり革はすり抜けていって、外に何人もの人の列を携えた扉が開いたと思えば見えるのはただの二人だけで、狐に化かされたような気分になる。

雨が降っている。