0802

密航者の気分だった。どこから来たのかをいつでもやんわり秘匿した。街は茹っている。会いたい人に久しぶりに会えたり、そもそも声をかけられなかったりした。

世界観がもう分かれ始めているというよりも、分かたれがほぼ完遂されつつある段になってようやく気がついた気分で、私が彼女に対してできる次元の話が何もないと思ったときのやりきれなさと、それをうまく言えなかったことの心残りがずっとあの夜の中に眠っている。人間をすることに真っ直ぐに向かっているようで、その底知れない熱と暗がりに目が潰れそうな思いがする。素敵なことだと本気で思っている。

3回分だけ足を波にさらしてとても夏だった、白いところで少し離れてご飯を食べた、彼女を近い星に住んでいると思った、とても嬉しかった。赤い塔。最近見たものの話、お互いに知らない共通の知り合いの近況など。賑やかな音楽の成り立ちについて話したりもする。本屋さんには私の本棚のような棚があって、つい本を買ってしまう。いつか彼女を案内するために、もう少し近くの街を知りたいと思った。

久しぶりに会った気がしないのはある意味では当然のことだった。猫にやけに警戒されたり、なぜか松ぼっくりが落ちていたりした、もっとたくさんのことがあって、違いはよくわからないけれどなんとなくそれは開かないでおきたいような気がした。一つの後悔はもっと話を聞けたらよかったということで、もう一つの後悔は迷惑を顧みず次の日を誘えばよかったなということで、そういうことを思いながらまた長い電車に乗ると、暑さに焼かれた頭がふっと虚無をもたげてくる。カレーを半分も残してごめんなさい、懐かしい神社には人が溢れていてどうやら行事の最中だったみたいだった。私も一人で参加する。知らないバスに乗る。知らない場所で展示を見て、とても暑い。まだ少し後悔していたけれど外は暑く、眩しく、石畳は焼けるよう、木漏れ日に土は濡れるよう、そうして全ては閉じていっても会いたい人はまだたくさんいて、それはとても幸せなことだと思う。