0211

2日かけて心理検査を受けたことがある。特に必要があったからではない。大学生のよくあるアルバイトのひとつとして、冬の日、静かな検査室に足を踏み入れたのだった。同じ大学にあるのにいつも使う建物からは一駅分離れていて、敷地の中は全くと言っていいほど知らない場所だった。小さな小さなコンビニが奇妙に生えていたことを覚えていて、駅の方からそちらへ向かうときに見えた、すぐ近くの駐車場の、踏切みたいな黄色いバーのことをなぜか覚えている。その向こうには緑に覆われた少し古風な建物があった。消えていくものの多いあのまちで、それは今でも残っているだろうと思う。

検査室は閑静で清潔だった。検査官は男性であったこと以外何も覚えていない。年齢も、体型も、覚えていなくて、声だけはわかるような気がするけれどこの調子だとまあ気のせいだろうと思う、多分こういうところだよなあ。色々やったことは覚えていたり覚えていなかったりする。検査の結果は希望すればもらえるというので、興味本位で希望したがそれが送られてくることはなかった。何かの手違いを起こしたのかもしれないし、敢えて問い合わせるほどでもなかったからそのまま今はデータの海の中で散り散りになっているのだろうと思う。プランクトンとしての私の過去の認知機能、唯一の実体はあなたかもしれない。表情に対する知覚と、あと忘れてしまったけれど何かもう一つ、私の回答に偏りのあるものがあったらしく、それをやんわりと指摘されたことを時々思い出す。それがどんな意味を持っていたのか、大した意味はないことだけがわかっていて、時たま思い出したりする。

買った詩集が届いた。帯文を読んでいたらまっさきに懐かしい音楽を思い出した。知らない間に42度の湯船で拍動がぐらつく。