0607

窓硝子の向こうに降りてくる灰色の雲を背にしてやわらかな頬の女性がまるいベーグルをしずかに齧っているのを見ていた 切り揃えられた前髪のしたで視線はしとやかに手元を向き、その指先は丁寧に線を引いている それだけで彼女になりたいと思った ことばをかわしたことのない彼女になりたいと思って右からは初恋の話、左からは新入社員の仕事の話(きっと同業者)(人手の足りない仕事) プラスチックカップの中で氷がゆっくりと崩れていく

 

この一週間で私が学んだことは、浮遊感、雨の日の白さ、夕陽の濁り、夕方の青さ、この驚きを忘れたら終わりだとみんなで笑って、そのぶん私は穏やかでしあわせでいられているのだと思う

また髪を切る

さまざまな話を聞いたとき胸に起こったものの名前をわたしは知らず、知らずにいたことに安堵に似た何かがねじ込まれていくのを思っていた

月曜日の朝。車窓から見える流れていく直線、文字、人の顔、直線にわきあがる恐怖に似たなにかを、持ち続けていたいと思うエレベーターで 高い高いする 重力に従って落ちてゆく景色を見送る、空飛ぶってこんな気持ちかなあ 人間でいることと戦っていたいね ね 細胞のひとつひとつを整頓するのが自然だという、直線、直線は美しいですか?場合によらないことの数だけを数えたりする ロッカーをばたんと閉める音 ばたん ぼんやりするためだけの移動だった 嵐の前の静けさだと聞いた きっとそうだと思う 前借り 稲刈り