0710

薄いビニールは潮騒のような音をならして、わたしの記憶を飲み込んでいく。家具の入れ替えで強制的にはじまった片付けで、わたしはいくつかのものを手放さなければいけなくなった。ものがないと、忘れてしまう、たとえ覚えていられたとしても、それがわたしのものだったと言えなくなってしまう、だからみんなどうでも良くなるまで手放すことができない。本を置ける場所がなくなってしまい、箱や袋の中に一時保管してそのことがひどく息苦しい、どこに何があり、手に取れることが大事なのだと思うことは贅沢なのか、わたしには不相応なのか、息が苦しくて悲しい。本棚を整理していると、この歳になって、実用書のひとつもない、自己啓発書のひとつもない近所の本屋とまるで割合が違うこの本棚が恥ずかしくないのかと囁いてくるお前誰だよ、本当に誰なんだよが頭の中に沸いてきて、踏み潰す、ちぎりころす、わたしにとってしか意味がないからわたしが守らないといけない、呪文のように最近ずっと繰り返す言葉。かわいた砂浜に立つ気分で、呆然と部屋に立つ(わたしに必要なのは、単純に本棚なのではないだろうか。)

投票に行った。正直考えることはさほど多くない気がしている。少しだけ並ぶ列で、きょうが酷暑でなくてよかったと思う。きっと暗澹たる思いで結果を眺めることになるのだと分かっている。この先もずっと選挙があって、行ける場所だといいと思う。お母さん誰に入れたのと子どもは大声で楽しそう。言わない自由を自他に守ることがお互いを一個の人として見ることだと通りすがりが思うことが、いつかその子にも誰かの言葉で伝わるといいと思う。