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古い建物、使い方のわからないエレベーター。雨の降りそうな灰色の重たさによく似合う45分間。

電車の口が開いた時、そこに両足を投げ出してみたく思うようなことも。子どもの国から追放された私の体をどこにも行けない私の心は置いていく秋の始まり、今朝を貫く冷たい空気は真っ先に私を記憶へ連れ帰る。水面が嘘みたいに光っていたことは今でも思い出せるし、思い出せるということはすなわちもうすでに忘れてしまったということでもある。体を置いてきたという感覚はずっとどこかにあるような気がする。形以外実在しなくなって初めて、私は私の手指と相対することができるようになったのかもしれない。