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ひさしぶりに時間を忘れるという感覚にあった。私はたまに個人料金で入れるスタジオに行っている。目的を達成するのにだいたい30分から1時間くらいかかるのだが時間が余るように予約をしていて、残りの時間ではただただ大きい声を出したりドラムを叩いたりそのとき持っていたテキストを音読したりしているのだけれど、きょうはノートPCを持ち込んでいて音の組み合わせを鳴らしたりそれに合わせて喋ったりしていた。いつの間にか退室の7分前とかになっていて、慌てて全部を片付けてどうにか間に合った。

 

夕方に寝てしまって、怖い夢を見た。ロールプレイを伴うゲームに参加しているのだが、そのロールプレイ性が現実にいつの間にか食い込んでいるというものだった。後から書き直すと結構安っぽい素人小説じみているのだが、夢を見ている当時はとても怖い気持ちになって仕方なかった。状況の軽薄さと感情の切実さは必ずしも比例しない。夢であれば尚更だ。

ゲームに参加している集団はだいたい顔見知りで、当初の段取りは和気藹々と進行していた。明るい高層ビルのフロアをめぐりながらあれこれの駆け引きが行われるのだが、赤やオレンジに彩られたポップな調理場に至ったとき、私は手渡された日本刀で起こしたアクションが「白菜を切る」だったので、ルール表に従ってその時点で「そちら側」の人間ということになった(赤いものを切ったので)。それ以降は「そちら側」ではない人間に気づかれないように、「そちら側」の人間として振る舞うことになる。とここまでは普通のゲームらしくて良いのだが、だんだん様相が変化してくる。いつの間にか、「生き残り」は「そちら側」に捕まってはいけないというルールがロールプレイの枠を突き破ってしまう。「そちら側」になった私は小さい会議室に入る。読んでいると不安になるメモがあちらこちらに貼ってあって、解読しようとしていたところで視点は知らない女の子に移る。夕方の住宅街を必死で逃げ回っている。彼女はまだ捕まってはいけない。とにかく人に見つかるのが怖かった。鬼の形相で追いかけてくる「そちら側」に捕まったら何をされるかわからなかった。茂みに潜んで、背の高い雑草で手足の皮膚が切れる。団地を突き抜けてくる橙色の日差しが眩しかった。陸上部のエースだった彼女がどうしていまこんなことになっているのか。

やがて夜になり、彼女は未だ雨が降る中を逃げ回っている。廃屋の屋根の下で息を上げながら彼女は呟く。おそらくは己を保ち鼓舞するために。

「わたしは、わたしの名前は○○○・□□□。走るのが好きだった。いまは走るしかなくて、走っている。わたしは歌うのが好きだった。いまは歌うと……」

物音がした。一瞬怯んだが、追っ手のものではないらしいと分かった彼女は、なるべく遠くへ逃げるべく、ひと気のない坂を下っていくのだった。夜の雨はひどく重たく冷たかった。