0403

尊厳もへったくれもないだろうと朝の電車で思う。嫌な角度から背骨を押されて歪む体、潰れる臓器、詰まった人体が連鎖的に破裂する様子を想像する私はB級サメ映画の流血すら見られないのに。日差しは重く、朝は冷たかったからコートを着たけれど間違っていたかもしれない。2月に通ったオフィスに忍び込むようにして朝8時、誰にも見られずパソコンを回収して逆方向の電車に乗って別のオフィス、ひさしぶりのエレベーター、エレベーターで一番怖いのは支える部品が見えたとき。帰るのが遅くなる。当たり前みたいに言わないでほしい。自分の倫理に直接反しない限りその場の空気でにこにこすることができる、体調を崩すような仕事はしたくないのに笑顔でありがとうございますと言えてしまう、こういうときばかり喉は微細に動くことができてしまう、悲しい。背後の女性の愚痴が怖い、社会適合性が高く想像力か何かしらに欠けるとこうも残酷になるのか当たり前みたいな顔をして。でもその残酷さをどうせ私だって持っている。汚い。遅くなって、それが悪いのか、何なのか、悲しくなって急にえずいて、涙が出る、ぼろぼろでる、嫌だな、お前が何もできないからこうなったんだよ。そうだね。そんなことくらいわかっている。電車で隣に座る男のイヤホンに接続されずに追悼のように流れる音楽、人の死ということもまだわからない。言葉が流れていく。心が少し秋に帰る。ベンヤミンの文字を見つけて、お母さん、おやつは。わーい。そんなこと。

夜道でチューリップはもう開ききる頃、毒々しい放埒さ、咲いてよかったね。風が吹いてやっぱりコートでよかったかもしれない、春の夜に冷たさはきらきらしていて、ふとまっさらになる瞬間があった。