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朝の街は静かで、散らかっていて、灰色の、水色の、白色の空気を吸い込みながら歩くと自然と気分は高揚した。こんなにも朝なのに、映画館という場所には人がたくさんいることに驚く。予感はあった。あったから、それでも今日しかなかったから、別の場所を選ぶことも考えたけれど結局そうしなかったのは惰性と、それだけで自分の予定を変更することにどれだけの意味があるのかという開き直りがあったからだと思う。帰り際、多分目があったと思う。この1年でたった2回、短く言葉を交わしただけの眼差しの強さをなぜか覚えてしまっていた。イヤリングの透明な石が光って、その色が赤だったのか青だったのかをもう思い出せない。追い越されて、その人はどこかへ消えていった。もう2度と会わないかもしれない人、遠い憧れ、それは多分恋に似ていて、私が今後経験しうる感覚の中でもっとも恋に近いもののような気がしている。小雨はすぐに止んだ。

昨日は友人と会った。初めて会ってから6年は経つと思うとそれは恐ろしいことで、元々あまり似ていない彼我の感覚は着実にずれていく、その人の思う私らしいが何なのかわからなかったし、私はきっと薄情になってしまった。ずっと前に言ったのはいつか全く話せないほどずれてしまうと思うということで、その時その人は何と言ったか、その人は覚えているだろうか。人間になる前の人間になりそうな何かと、人間の話をずっとしていたかったのに、多分どちらもそこそこ人間になってしまって、共有可能な泥濘は萎んでいって、そういうことがこれから、あらゆるところであらゆる人間との間に起こるのかもしれない、そういうことを思うと、それはとても悲しいことのように感じる。自分の中に立ち上げることのできる虚構はこんなに脆弱であるのに、これ以上私は現実の人間と関わることができるのか。夜中の公園でブランコを漕いだ。関係ないけど、お姉さんずっと同じ方向を見ていていいですねとにこにこ話しかけてきた店員さんは多分私と同じ種類の雑に言えばコミュ障なんだろうなと思う。

すべて水に沈んでしまえば良いのにという気持ちと、それはとても苦しいことだろうという気持ちとが並んでいる この1週間単純に情緒がアッパー気味だったらしく、苦手なはずの映画を5つもみた。このまま苦手ではなくなるのか、そうではないのか、けれども最後の方はやはり息苦しかったから、今が少し異常なのだろうなと思う。