0503

非常事態宣言のアナウンスはわたしの部屋からもかろうじて聞こえる。風の音に混じって、1日に2回なのだろうか、平坦な女性の声がぼんやりと聞こえる。非常事態というものはこうやってのどかに、表面上はのどかにして訪れるのだということを納得として迎え入れる。壁の向こうののどかではない世界のことを思う、どこまでも無責任に思う。

部屋には窓がひとつついていて、ドアを開けないから風は通らない。住んでいたワンルームのことを思い出す。まだ一人暮らしを始めたばかりのころになぜか納豆を火にかけたことがあって、部屋中がひどいにおいになって、風を通すこともできないから百均で消臭剤を山ほど買い込んで、人の気配をうかがいながらドアをぱたぱたと開けたり閉めたりした。