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圧縮すればおよそ数日分うんうん唸ってようやく字数だけが満たされたエントリーシートを提出した。むかついて、きょうこそマフィンを焼いてやろうと思った。実家とあって基本的な材料は家にあったけれど、物足りない気がして買いに出かける。父親の言によれば最高気温は25度、似合わないトレンチコートも少し余計に感じた。髪を切りたいな、と思った。切りそろえた前髪だけは正してやるつもりがないけれど、逆にいえばそれ以外にはこだわりがない。一度に数千円飛ぶのが怖くて切りに行けないだけだ。以前肩の上まで切ったのがもう三年も前になることに気がついて驚く。ひねくれた歌詞を歌いながら歩道橋を歩く。知らない人とすれ違って気まずい。

スーパーマーケット、頼まれていたものをかごに入れてから、迷いに迷ってチョコレートとバナナを買う。井戸端会議を見かけてなるほどな、と思う。帰り道を歩く。似合わないコートのことは忘れていた。

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バターを溶かす。室温で戻すだけの根気がないから、レンジに突っ込む。砂糖と混ぜ合わせて、チョコレートを割り入れる。バナナを入れて潰す。入れて潰す。わたしは腹が立っていた。四本セットだったバナナはすべてボウルの中でぐずぐずになった。粉を入れる、ふるいにかける丁寧さも持ち合わせがなくてすくったスプーンでふりかける。1グラムや2グラムの違いなんて誤差でしかない。ベーキングパウダーも一包では微妙に足りなかったが、食べられなくなることもないだろうと無視してそのまま。むかつく。全部崩す、全部混ぜる。オーブンを予熱してココットに生地を注ぐ、大量のバナナのつなぎに粘性のある生地が使われているような密度で、配分も考えずに適当に落とし入れる。予熱終わりの鳴き声がして、ココットを並べた天板をオーブンに入れる、15分にセットする。有り余る怒りでボウルとゴムベラを洗う、細かいことを無視すれば洗い物は減る、4年間の一人暮らしで身につけたわざのひとつがぎりぎりまで省エネで食料を組み直すことだった。あまり待たずに焼きあがる、焼きあがるとそれで満足して興味を失ってしまった。普通にお菓子を作りたくて作るときは完成品にある程度の愛着が湧くものだけれど、今回はそうじゃない、目的であった破壊の副産物としてお菓子が出来上がっただけなのだ。破壊さえできればあとはなんだって良い。破壊行為をお菓子作りとかいう可愛らしくておとなしい何事かでコーティングしただけだ。わたしはむかついていた。マフィンはほとんどバナナだった。