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やわ生温い空気を入れ替えようと窓を開けたら、流れ込んできたにおいの確固たる輪郭に息苦しくなってすぐに閉めてしまった。町のにおい、というものはあるのだとようやく思う。かたい殻のにおいがする。本当のことだけで話をしようとしていた、やわらかなゼリーに還れそうだったあの頃には戻れない気がする。

たまに交流の機会がある。昔よりもずっと滑らかに笑えていて、話を回すとか、適切かの判断がきかないことだけが不安といえば不安だけれど、人と友好的にやるということが少しはできるようになった気がした。本当だろうか。

終業後、プログラムの更新があるとかの通知に迷いなく従う。まだ開いているプログラムがありますと忠告されて、確認もしないで強制的にシャットダウンを押した。何も作業中のアプリはないはずだけれど、これでいいのかなあとは思う。更新中の見慣れない真っ青な画面は目を閉じても見えてくるようで、吹き出る排気音をただ聞いていた。この音の名前ってなんだったっけ、と考えて排気音という言葉が出てきたとき、真っ先に灰色の印象が煙って、けれども排気って透明なのになと思っているうちに更新はすぐに終わる。画面が消える。机の棚から自分のパソコンを取り出して開いて、エンターキーを二回押すと知らない山の写真がいっぱいに広がっている。元々は自分の好きな画像に設定していたものの、容量がなくなってきて諦めたのだった。本当にすれすれなせいでOSもいくつか古いもののままで、最後に更新したのはいつだろう、考えても思い出すことができない。それでも動く。まだ動いてくれる。