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起きられなかった。こうも起きられない日が続いて、それなりに寛容だった母親にも流石に呆れられているようだった。最近、アラームをいくら鳴らしても起きることができない。ひとりで暮らしていた時のほうがちゃんと起きられたような気がする。できるだけ気配を消して、縮こまってひとりで朝食を食べる時間は後ろめたいが安心もする。珍しくちゃんと起きられた朝、声の大きい父親の横に座って食事を取るのはそれだけで少し疲れてしまう。明るく元気にはきはきと、苦手で何が悪いのだろう。怖いとさえ思うのをどうして否定されなければならないのだろう。

気がつかないうちにプレイリストの中身が消失していた。1年半くらい前にチーフをしていた公演で開演前と終演後に流す曲をまとめていたプレイリストで、かなり思い入れがあったから気づいた瞬間血の気が引いた。常に残量ぎりぎりのPCストレージを整頓したときに巻き添えになってしまったのだろうか。悲しい、復帰しようとしてみるけれど、どうしたって曲名まで思い出すことはなかなかできない。鈍い絶望感がだらりと気管をおりていく。きっとどうでもよくなってしまういつかへの予感と合流して、生ぬるい空虚が肺の位置におさまる。妹が向こうの部屋で大声で騒いでいる。あちらの方がだいぶと正しい。もう正しさに憧れない。ずっと前にやめた。

さいきんは夜のほうが元気だ。元気というほど活力に満ち溢れているわけではないが、気が軽い。何も悲しくなくて、内臓の重さを意識しないでいられる。だから夜が来ると安心するし、朝に起きても悲しいだけなのにすぐに寝なければいけないことが悲しい。

就活の支援サービスを使っていて、夜のそれなりに遅い時間に連絡がきた。同じようにおとといくらいに連絡があり、その時の紹介で予約していた説明会についての詳細で、加えて、当日までに志望動機を、と言われてはいわかりましたと答えながら絶望していた。電話を切って、重力が強さを増していくのを全身が引き受ける。ふらつく足取りでキッチンまで向かう。マグカップに牛乳を入れて温める。母親の目を盗んで座り込んで飲む。見つかれば怒られるまではいかなくても嫌な顔のひとつくらいはされてしまうだろう。昔だったらしようとも思えなかった。無駄に自由になった。