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商店街までの道すがら、いくつもの自動販売機を通り過ぎる中にひときわ異彩をはなついちごミルクのレトロな缶が右端にひっそりと座らされているものがある。商品の入れ替えとかないのかしらと気になるくらいには昔からずっと同じラインナップの自動販売機で、今までずっと気にかけながら、どうにも手を伸ばすには今じゃないような気がして見逃し続けていたけれど、ついに今だという気になってそのまま130円ぶんの硬貨を落とし入れて、とうとうその可愛らしい見た目をした小柄な冷たい缶が、立体としてわたしの手元にめでたく現れることになった。プルタブを開ける、嘘みたいに率直なパステルピンクが中で揺れていて可笑しくなってしまう、口にすればほのかに甘くて、晴れ間ののぞく昼さがり、これを撒き散らしてしまえばどんなに愉快なことだろう。どんなに叫びたくなったって叫ぶ力すら持っていないことを知っている。

写真を撮りながら歩いていたのだった。いつも道のはしっこに生えている草とか、道に映る影とか、そういうものばかり気になってしまって撮るけれどいちばん撮りたいものは写真に残せない。そうやって歩いているうちに、だんだん言葉が帰ってくる、溢れそうな言葉でなんだって言えるような気がした、自由に動き回るようになるこういう瞬間をこそ、記録してしまいたいといつだって思うのだけれど、記録してしまえばしてしまったぶんだけ味気ないものになるなら一瞬の感傷に甘んじて全部忘れてしまうことの方が正しいのかもしれない、と思ってさみしくなる。